「庄や」で知られる大庄が潰れないのか気になる人は多い。
飲食業界は原材料費、人件費、家賃、光熱費などの上昇が利益を圧迫しやすく、居酒屋チェーンにとって決して楽な環境ではない。
それでも大庄については、単純に「居酒屋チェーンだから危ない」と判断するのは早い。
2026年9月時点で確認できる決算資料や事業構造を見ると、大庄には複数の収益源と一定の財務基盤があり、すぐに経営破綻へ向かう企業とは見方が異なる。
もちろん「絶対に潰れない」と断言することはできない。ここでは、なぜ大庄が比較的しぶとい事業構造を持っているのかを具体的に見ていく。
大庄は「庄や」だけの会社ではない
大庄といえば「庄や」「日本海庄や」「大庄水産」というイメージが強い。
しかし、実際の事業はかなり幅広い。
2025年8月末時点で、直営232店舗、FC28店舗、VC51店舗の合計311店舗を展開していた。売上高は連結で525億5600万円、従業員数は966人である。
さらに「お魚総本家」「呑兵衛」「満天酒場」「築地日本海」「築地寿司岩」「RUMPCAP」「とり家ゑび寿」「悟大」「Café & Bakery MIYABI」など、複数のブランドを展開している。
つまり、大庄を見るときに「庄やの客数」だけを見るのは不十分だ。
業態ごとの客層や立地特性を変えることで、特定ジャンルへの依存度を下げられる構造になっている。
注目したいのは「飲食+物流」の組み合わせ
大庄を分析するうえで個人的に面白いと感じるのが物流機能だ。
大庄は自社物流センターを保有し、自社店舗への食材供給だけでなく、同業の飲食店への食材卸売も行っている。
これは単なる居酒屋チェーンとは少し違う。
一般的な飲食企業では、店舗で料理を提供して売上を作ることが中心になる。
一方、大庄は食材の調達、物流、店舗運営という複数の工程をグループ内に持つ。
この構造には、仕入れや配送を効率化しやすいというメリットがある。
さらに外部の飲食店へ卸売できれば、自社店舗の客数だけに収益が左右されない。
「店舗数が多いから強い」というより、「店舗網と物流網を組み合わせていること」が大庄の特徴だと考えられる。
2026年8月期は増収を維持している
2026年8月期第3四半期累計では、売上高399億3900万円となり、前年同期比1.2%増となった。
一方、営業利益は8億8100万円で16.7%減、経常利益は9億600万円で16.6%減、親会社株主に帰属する純利益は6億4900万円で41.7%減だった。
ここだけを見ると、利益面には注意が必要だ。
売上が伸びているのに利益が減っているため、原材料費や人件費などのコスト上昇が収益性を圧迫していると考えられる。
ただし、売上そのものが大きく落ち込んでいる状況ではない。
大庄は2026年8月期について、売上高537億円、営業利益12億7000万円、経常利益12億2000万円、純利益9億2000万円を予想していた。
したがって現時点では「売上崩壊→赤字拡大→資金繰り悪化」という単純な危機シナリオとは異なる。
財務面も確認しておきたい
企業が潰れるかどうかを考えるとき、利益だけでなく貸借対照表を見る必要がある。
2025年8月末時点で、大庄の連結純資産は112億8600万円だった。
一方、負債合計は182億3600万円である。2024年8月末と比較すると負債は231億2100万円から減少している。
また、2025年8月末の長期借入金は39億200万円、1年内返済予定の長期借入金は22億8300万円だった。
借入金が存在する以上、財務リスクがゼロという意味ではない。
しかし、重要なのは「借金がある=潰れる」ではないことだ。
飲食チェーンでは店舗設備や運転資金などに一定の資金が必要になるため、借入金そのものよりも、営業活動から生み出すキャッシュと返済負担のバランスを見る必要がある。
店舗を増やすだけではなく「業態変更」も進めている
大庄の経営戦略でも注目したいのが、単純な店舗数拡大ではなく、既存店舗の改装や業態変更を重視している点だ。
2025年8月期の決算資料では、「庄や」のリニューアルや強化業態への業態変更、メニュー開発、デジタルマーケティング、ウェブ予約獲得などを今後の施策として挙げている。
これは非常に重要なポイントだ。
飲食店は、同じ場所で同じブランドを何十年も続ければ必ず繁盛するというビジネスではない。
駅前の人流、年齢構成、競合店、昼夜の需要などが変化するからだ。
そこで既存店舗を別業態へ転換できれば、物件をゼロから探して出店するより効率的に商圏を再活用できる。
大庄のように多数の店舗網を持つ企業ほど、この「既存資産の再活用」が重要になる。
新しい業態への展開も続いている
2026年には大衆食堂「定食のまる大」の8店舗目を青物横丁駅前に出店するなど、新しい業態の拡大も進めている。
ここにも大庄の面白さがある。
居酒屋需要だけに依存するのではなく、ランチや定食など別の時間帯の需要を取り込むことで、店舗の売上機会を増やせる。
居酒屋業界を見るとき、「夜に酒を飲む人が減ったら終わり」と考えがちだ。
しかし、昼食需要、食事需要、宴会需要、魚専門店需要などに分散できれば、客単価や利用目的の違う顧客を取り込める。
「潰れない」と考えるうえでの最大のポイント
大庄が潰れないと考える理由を一つに絞るなら、私は「事業の再構築余地が大きいこと」を挙げたい。
311店舗規模の店舗網があり、複数ブランドを持ち、物流機能も持つ。
さらに、既存店舗のリニューアル、業態変更、新業態出店、メニュー改革などを組み合わせられる。
これは成熟企業にとって大きな武器になる。
実際、2026年9月時点でも大庄は「庄や」84店舗で季節限定メニューを展開し、「大庄水産」でも24店舗で季節メニューを展開している。
単に昔からある店舗を維持しているだけではなく、商品や業態を変えながら店舗資産を活用しているわけだ。
もちろんリスクがないわけではない
一方で、大庄を過度に楽観視するのも危険だ。
最大の問題は利益率だ。
2026年8月期第3四半期累計では増収だったものの、営業利益、経常利益、純利益はいずれも前年同期を下回っている。
特に飲食業は、人件費や食材価格が上昇した場合、売上増加だけでは利益を確保できない。
今後注目すべきなのは、客数、客単価、既存店売上高だけではない。
「売上が増えたときに、どれだけ営業利益が残るのか」という利益率の改善が重要になる。
大庄は「危ない会社」なのか
2026年9月時点の公開情報から判断すると、大庄には利益面の課題がある一方、事業規模、ブランドの多様性、物流機能、店舗再編、新業態展開など複数の経営基盤が存在する。
そのため、「居酒屋業界が厳しいから大庄もすぐ潰れる」という見方には無理がある。
むしろ今後の焦点は、潰れるかどうかよりも「既存店舗をどこまで高収益化できるか」にある。
特に、業態変更による不採算店舗の再生、食材調達・物流の効率化、定食など昼需要の取り込み、デジタル予約による集客効率化が進めば、利益率を改善できる余地がある。
大庄は決してリスクのない企業ではない。
しかし、2026年9月時点の財務・事業構造を見る限り、「大庄は潰れる」と短絡的に判断する材料も乏しい。
大庄を見るなら、店舗の閉店ニュースだけを追うのではなく、既存店売上、営業利益率、借入金、店舗ポートフォリオ、物流事業、そして新業態の成長をセットで確認することが重要だ。
「庄やがある会社」ではなく、「飲食・物流・多業態を組み合わせて店舗資産を再活用する会社」として見ると、大庄の企業体力は違った角度から見えてくる。