食料品の消費税をゼロにすると、飲食店は潰れるのか。
結論からいえば、食料品の消費税ゼロだけを理由に、飲食店が一斉に経営破綻するとは考えにくい。
ただし、飲食店にとって無視できない経営環境の変化が起きる可能性はある。
特に重要なのが「外食は10%のままなのか」「食材の仕入価格は本当に下がるのか」「消費者の外食頻度が変わるのか」という3点だ。
2026年9月15日、国税庁と財務省は、飲食料品の消費税率を2年間引き下げる制度案を公表した。現在の軽減税率8%を0%とする方向で、2027年4月1日からの実施が想定されている。ただし、現時点では法案の成立が前提となる。
食料品ゼロでも「外食」は別扱いになる
現在の消費税制度では、酒類を除く飲食料品の販売には軽減税率8%が適用される一方、外食は10%だ。
例えばスーパーで食材を購入すれば8%だが、飲食店で料理を食べれば10%になる。
これは、食料品そのものの販売と、飲食店が提供する「食事というサービス」を税制上区別しているためだ。国税庁も外食やケータリングは軽減税率の対象外としている。
仮に食料品が0%になって外食が10%のままだと、この差はさらに大きくなる。
ここが飲食店にとって最大のポイントになる。
例えば税抜1,000円の商品を考えると、食料品なら現在は1,080円、外食なら1,100円という違いだ。
食料品が0%になれば、同じ1,000円の商品は1,000円になる。
一方、飲食店で1,000円の料理を食べれば1,100円のままだ。
この価格差が消費者の行動にどの程度影響するかは、飲食店の業態によってかなり違ってくる。
「自炊が安い」が外食産業に与える影響
食料品が0%になれば、消費者から見ればスーパーなどで購入する食材の価格が相対的に安くなる。
その結果、「外食より家で食べたほうが安い」という判断が強まる可能性がある。
実際、2026年に飲食店経営者を対象として実施された調査では、食料品消費税ゼロによる懸念として「外食需要が減り、客数が減少する」が47.5%で最も多かった。調査対象は飲食店ドットコム会員306人であり、飲食業界全体をそのまま代表する統計ではないものの、現場の懸念を知る材料にはなる。
ただし、ここで重要なのは「外食=食料品を買う行為」ではないことだ。
飲食店には、食材だけではなく、調理、接客、店舗、空調、清掃、立地、営業時間などのコストが含まれている。
例えば仕事帰りに1,000円の定食を食べる人は、単純に「米と肉と野菜を買うより高いから損」と考えているわけではない。
料理を作る時間を節約できること、洗い物をしなくてよいこと、職場から近いこと、家族と外で食事できることなどにも価値を感じている。
そのため、食料品が0%になったからといって、外食需要がそのままゼロになるわけではない。
飲食店にとって食材0%は「悪いこと」だけではない
意外と見落とされやすいのが仕入れだ。
飲食店は大量の食材を仕入れている。
食料品にかかる消費税が0%になれば、対象となる食材の仕入れ時に支払う消費税もなくなる。
政府が想定している制度は「非課税」ではなく「ゼロ税率」とする方向であり、仕入税額控除を維持する仕組みが示されている。これは税務上かなり重要な違いだ。
消費税は、基本的に売上にかかる消費税から仕入れにかかった消費税を控除して納税額を計算する。
したがって、食材の仕入れにかかる税率が0%になった場合、単純に「仕入税額控除がなくなるから飲食店が損をする」と考えるのは正確ではない。
実際には、仕入れ時の支払いそのものも減るためだ。
国税庁も消費税について、課税売上に係る消費税額から課税仕入れ等に係る消費税額を控除する仕組みを説明している。
本当に怖いのは「仕入価格が下がらない」ケース
飲食店経営でかなり重要なのが、税率が下がった分だけ仕入価格も下がるのかという問題だ。
例えば、ある飲食店が食材を税抜100万円分仕入れているとする。
8%なら税込108万円だ。
これが0%になれば、単純計算では100万円になる。
ところが、仕入業者が税率低下分をそのまま価格に反映しなければ、飲食店側の支払額が期待ほど下がらない可能性がある。
つまり「消費税が0%になった=仕入れが必ず8%安くなる」とは限らない。
実際の取引価格は、原材料費、人件費、物流費、エネルギー費、為替、需給関係などによって決まる。
税率変更だけで卸売価格が機械的に決まるわけではない。
この点については、政府の実務者会議でも、食品を扱う産業全体への影響や、事業者間の取引価格への影響が課題として整理されている。
飲食店の「納税額」と「手元資金」は分けて考える
さらに専門的に見るなら、利益とキャッシュフローを分けて考える必要がある。
飲食店経営では、最終的な利益だけでなく、毎月の現金残高が極めて重要だ。
食材の仕入れ時には消費税を払わなくなる一方、外食の売上については10%の消費税が発生する状態が続けば、納税時の資金負担を意識する必要が出てくる。
政府の資料でも、食材に係る仕入税額がなくなることで期中の資金繰りは有利になる一方、確定申告時の納付税額が大きくなり、消費税の滞納増加につながる可能性が指摘されている。
これは「税率が下がるのだから絶対に得」という単純な話ではない。
飲食店では、売上が毎日入ってくる一方で、家賃、人件費、仕入れ、光熱費、リース料などが発生する。
その中で、税金をいつ納めるのかまで考えて資金を管理する必要がある。
小規模店ほど影響が違ってくる
飲食店と一括りにしても、個人経営の小さな居酒屋と、全国チェーンのファミリーレストランでは税務上の状況が異なる。
課税事業者なのか免税事業者なのか。
本則課税なのか簡易課税なのか。
インボイス発行事業者なのか。
食材比率はどの程度なのか。
テイクアウトの売上がどの程度あるのか。
これらによって影響は変わる。
国税庁によると、基準期間などの課税売上高が5,000万円以下の事業者は、一定の条件のもとで簡易課税制度を選択できる。飲食業ではみなし仕入率を使って納付税額を計算するため、すべての店が同じ影響を受けるわけではない。
したがって、「飲食店は食料品0%で一斉に損をする」という説明はかなり乱暴だ。
テイクアウトと店内飲食の問題も出てくる
もう一つ面白い論点が、テイクアウトと店内飲食の価格差だ。
現在でも、原則としてテイクアウトの飲食料品には8%、店内飲食には10%という区分が存在する。
食料品が0%になれば、その差はさらに大きくなる。
政府の検討資料でも、イートインとテイクアウトの価格差が大きくなることで、販売時の確認対応などの事務負担が発生する可能性が指摘されている。
例えば同じハンバーガーを店内で食べる場合と持ち帰る場合で、税率が違う。
チェーン店ならPOSシステムで処理できるが、小規模店舗にとってはレジ設定や価格表示の変更だけでも負担になる。
実際、政府資料では0%という税率に対応するPOSやシステム上の特殊性も課題として取り上げられている。
「潰れる店」が出るとすれば税率だけが原因ではない
ここが最も重要だ。
食料品消費税ゼロによって飲食店が潰れるかどうかを考えるなら、消費税だけを見るべきではない。
飲食店の経営を決めるのは、売上、客単価、客数、原価率、人件費率、家賃、光熱費、借入金返済などの組み合わせだからだ。
例えば、もともと利益率が低く、客数が少し減っただけで赤字になる店なら、外食需要の変化が経営悪化のきっかけになる可能性はある。
逆に、固定客が多く、料理そのものに強い競争力があり、テイクアウトやデリバリーなど複数の収益源を持つ店なら、税制変更だけで経営が行き詰まるとは限らない。
個人的に飲食店を数字で見るなら、「消費税が何%になるか」より先に、まず損益分岐点を見る。
月商500万円の店なら、客数が何%減ると赤字になるのか。
食材費が何%変化すると利益がどれだけ動くのか。
人件費が月50万円増えたら耐えられるのか。
家賃を売上の何%まで許容できるのか。
こうした数字を把握していれば、税制変更による影響もかなり具体的に見えてくる。
食料品0%で「飲食店が全部潰れる」は現実的ではない
食料品の消費税ゼロは、飲食店にとって完全な追い風でも、完全な逆風でもない。
食材の仕入れ負担が軽くなる側面がある一方、外食と内食の価格差が拡大することで、消費者が外食を控える可能性がある。
さらに、仕入価格への転嫁、税務処理、POSシステム対応、資金繰りなど、実務上の論点も多い。
2026年9月時点で政府が示しているのは、飲食料品の消費税率を2年間引き下げる案であり、今後の国会審議などが前提となる。国税庁も現段階では「法案が国会に提出され、審議を経て可決・成立した場合」の内容として案内している。
したがって、現時点で「食料品消費税ゼロになったら飲食店は潰れる」と断定するのは早い。
むしろ注目すべきなのは、消費税そのものよりも、その後に消費者の行動がどう変化するかだ。
スーパーで買って自炊する人が増えるのか。
テイクアウトが伸びるのか。
外食は価格を維持できるのか。
仕入業者は税率低下分を価格に反映するのか。
そして飲食店側が、人件費や原材料費の上昇を吸収できるのか。
このあたりが、実際の経営を左右する。
食料品消費税ゼロは、飲食店にとって「即倒産の税制」ではない。
しかし、外食と内食の価格差を拡大させる可能性がある以上、もともと利益率の低い店にとっては経営戦略を見直すきっかけになる制度だ。
結局のところ、潰れるかどうかを分けるのは「消費税が0%になる」という一つの数字ではない。
客数、客単価、原価、人件費、家賃、資金繰り。
飲食店経営では、この複数の数字を同時に見る必要がある。